神戸の豪邸を尋ねて、差し入れのお礼を言う。
篠原台で泥かきをやった帰りしな、受付をしてくれたテントで、ココナツサブレとクッキーを貰った。
「住民有志からですか?」と問うと、著名なお金持ち一族からだと言う。
そのお金持ちは、子どもたちに贈り物をしてくれるようで、正月には餅つき、ハロウィンにはお菓子詰め合わせをプレゼントするのが常だとか。
お金持ちと言えば、昔、六本木の豪邸でブラック&プラチナカードの束を見せられたことがあった。
カードは勝手にカード会社が送ってくるものだそうだが、恥ずかしいので、同じ番号のゴールドカードを再度送らせ、通常はそれを使っているとのことだった。
そう言えば、波止場でフェリーだと思って見ていると、個人所有の船だったと聞き、タマゲタこともあった。
エアバス380を個人で持つ王族のような金持ちは、日本にはいないし、税制度や宗教的価値観(金持ちは持たざる者に施すことで徳を積み、死後復活する)の違いもあってか、日本では金持ちが日常的に寄付をする事は少ない。
その金持ちは阪神大震災ににも、色々と物資を寄付したり炊き出しをしたりしており、神戸では感謝されている。
現場から坂を下ると、高い塀と監視カメラに囲まれて金持ちの家があったが、そこだけが飛び抜けて金持ちなのではなく、近所全体が豪邸地帯であった。
近隣の通行料を払わねば家に帰れない場所で、そこの住民が果物の皮などを家の裏山にポンポン放るので、訪問者が「山の持ち主が怒ってきまっせ」と言ったところ、裏山全部がその家の所有物であった話と比較すると、そこまでの広さはないにせよ、私が見ても9桁か10桁の金額だとわかる家々は、それ自体に威圧感がある。
ガレージ側の向かいには、似つかわしくない英語塾のミッキーマウスのぼりがはためいていた。
正門の方では、来客の同行者らしきオジサンが出てきたので、「こんにちは」と声をかけたが、虫の居所が悪いのか、無視されてしまった。
既に家を撮ろうとカメラを構えていたので、正門と共に不機嫌なオジサンもファインダーに入っていたが、シャッターを押す前にオジサンは正門前に止めた車に乗り込んだ。
インターフォンにはカメラが付いておらず、お礼を言いに来た旨を伝えると、「わざわざ来てもらわんでも・・・」と大木こだま氏のような返答だったので、「せっかく来たんだから、顔ぐらい見せてよ」と告げ、開いている正門から階段を登り始める。
高い所に正門一帯を写すカメラが付いており、数段登ったところで、20代らしき兄ちゃんが出迎えてくれた。
お礼を言っていると、更に私より年配のオジサンも駆けつける。
「岸和田から来たんやけど、矢野さんが建てた家って、どれよ? 見せて」
「古い話やからなぁ・・・ 中は見せられん」
こんな短い会話を交わしただけだったが、お礼も言ったので、階段を降りて正門を出た。
表の通りから見える家がそうだろうか?
上空から見ると、中は正門側に建物が集中しており、ガレージ側の方に広いスペースがある。
道路のほうが低いので、建物の屋根からすべり台のような斜めのラインが見えるだけであった。